アイルランドは、中央ヨーロッパのケルト民族が紀元前500年頃から定住を開始し、彼らがもともと有していた文化を島の自然と融合させることで、独自の文化を築き上げた国である。このケルト人たちは、中央ヨーロッパの文化を継承しつつ、島が外敵の侵略を受けることが少なかったため、他地域の影響を受けずに、神話・芸術・規律・言語などを独自に発展させ、純粋なケルト文化を創造することができた。一方、中央ヨーロッパのケルト諸族はローマ帝国の影響を強く受けたが、アイルランドはローマの支配を受けなかったことから、「ケルト文化の保存庫」とも称されている。
　では、何故ローマ帝国は大ブリテン島（イングランド）まで侵攻したにもかかわらず、小ブリテン島（アイルランド）には手を伸ばさなかったのか。その理由としては、地理的・戦略的に補給が困難であったこと、アイルランド自体に征服による明確な利益が見いだせなかったこと、さらには外交的な保護下に置くことで間接的支配が可能であったことなどが挙げられる。端的に言えば、ローマ帝国にとってアイルランドは遠征してまで征服する価値が見いだせなかったのである。
　アイルランドには、古代ケルト社会において「ドルイド」と呼ばれる知的指導者を中心とした宗教体系、いわゆるドルイド教が信仰されていた。ドルイド教では、太陽や大地、動物、森の精霊など、自然界のすべての存在に霊的な力が宿るとする凡霊的な思想が広く浸透していた。そして5世紀頃になると、キリスト教がアイルランドに伝来し、長く培われてきたケルト文化に受容されるかたちで、独自の宗教的融合がなされた。これが「ケルト系キリスト教（Celtic Christianity）」と呼ばれるものである。しかし9世紀頃になると、ヴァイキングの侵入やノルマン人の進出などの外的な要因により、ケルト系キリスト教は次第に衰退した。その後、ローマ・カトリックの教義と制度がアイルランド全土に浸透し、長らく多数派の信仰として根付いていった。さらに近世以降、イングランドによる支配の中で、「英国国教会」に相当する「アイルランド聖公会」が国教の地位を得たが、これは1871年に廃止され、以後は少数派の宗派として今も存続している

　現代の「アイルランド共和国」では、ローマ・カトリック教が民族的アイデンティティの象徴として広く信仰されており、宗教的・文化的な基盤として国民の心に深く根付いている。
　現在のアイルランド共和国は、12世紀以降イングランドの支配を受け、1801年には「グレートブリテンおよびアイルランド連合王国」に併合された。しかし1921年、南部が「アイルランド自由国」として独立し、後に「アイルランド共和国」となった。一方、北部は「北アイルランド」としてイギリスの領土にとどまり、現在に至っている。
　アイルランド共和国は、かつて「西欧の最貧国」と呼ばれた過去を乗り越え、現在では一人当たりのGDPが世界の上位に位置するほどの驚異的な経済成長を遂げている。その成長の原動力となったのは、IT・製薬・金融といった分野における目覚ましい発展である。現在、首都ダブリンには、GoogleやMeta（旧Facebook）などの欧州本部が置かれており、その存在がアイルランドの経済的躍進を如実に物語っている。
　　出典：ウィキペディア他